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大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)1369号 判決 1969年4月24日

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の訴を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人被控訴人の均等負担とする。

事実

控訴人……以下被告という……は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人……以下原告という……は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠関係は、次のとおり付加するほかは、原判決の事実摘示のとおりであるから、それをここに引用する。

(被告の主張)

1、原告は、昭和三一年八月一一日、亡理喜之助から旧家屋の贈与を受け、これを解体して移築したと主張しているが、旧家屋は、もともと被告のものであつて、理喜之助が原告に贈与できないものである。

2、この旧家屋は、被告の夫である恵木利市が三和銀行から一五万円の預金を引出し、理喜之助に渡し、理喜之助がそのうちの一一万五、〇〇〇円で

杉山隆朗より被告のため買受けたものである。甲二号証の一の宛名が原告となつているのは、売買がなされた時よりずつと後に原告のいうままに作成されたものであるから信憑性がない。

3、原告は、昭和三二年五月、山林の売却代金のうち五〇万円を理喜之助に匿して取得した理由で理喜之助と訣れ、以来被告が理喜之助の世話をして来たもので、被告夫婦と原告の折合いが悪いため理喜之助が一時原告を家から出したのではない。

4、被告の夫利市が理喜之助に渡した金員が貸金であり理喜之助が自分で旧家屋を買受けたものであるとしても、昭和二八年の大水害で家のなかつたその頃、理喜之助が一人娘の被告のことを顧みず、これを原告に贈与するようなことはあり得ない。譲渡証書に立会人の署名も、理喜之助の署名もないのは奇異である。甲二号証の二は、坂口繁昌と原告が相通じて理喜之助の真意に反して作られた疑いがある。

5、原告は、三五万円を費し理喜之助の世話で本件家屋を建築したと主張しているが、この建築がなされた昭和三二年暮から正月当時は原告は既に旧家屋から外へ出ていたのであつていつ住むとも判らぬ家に三五万円もの金員を投ずるとは思われない。この家屋は被告が乙一号証の契約により一六万円を投じて建築したものである。

6、昭和四〇年八月二六日、被告の代理人芝虎一と、原告、その夫坂口繁昌の三名が話し合つた結果、被告が原告に示談金として二二万円を提供し、原告は、本件建物についての請求権を放棄し、本訴を取下げる旨の和解が成立し、被告は、原告に対し同日から同年一〇月二四日までの三回に二二万円の支抜いを完了した。よつて、原告は、当然本件訴訟を取下げるべきである。

(立証)(省略)

理由

当審における証人芝虎一の証言によれば、昭和四〇年三月頃から被告を代理する芝虎一と原告、原告の内縁の夫坂口繁昌との間において本件訴訟について和解の話が進められ、結局被告が原告に金二二万円を支払い原告が本件訴訟を取下げる旨の合意が成立し、芝は、同年八月二六日に一一万円、同年九月二〇日に四万円、同年一〇月二四日に七万円の合計二二万円を当時の原告方で原告に渡したこと、芝虎一がこの和解の交渉に入つたのは、原告代理人の亡伊藤弁護士や東弁護士から依頼されたものであり、被告代理人の諒解もあつたことの各事実が認められ、これに反する証拠はない。

されば、本事案は、原告の本来の請求原因事実について判断するまでもなく、原被告間に、被告が前記金員を支払うことを条件に、原告が本訴を取下げる旨の合意が成立したものであつて、原告は、これ以上本訴を追行する必要ないし利益がなくなつたものといわねばならず、被告のこの点に関する主張は理由がある。しかして、訴訟外で当事者間に示談が成立し、訴取下げの合意ができた場合、その訴訟が如何なる主文を以て終結するのが相当であるかにつき、わが民訴法上明文の規定もないので、当裁判所は、それが訴をこれ以上実施する利益、必要のない、客観的要件を欠く場合の一種であるとして、原告の訴を却下するのが相当であると解する。

よつて、原判決を取り消し、原告の訴を却下し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九〇条、九六条を適用して主文のとおり判決する。

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